各地に大きな被害を与えた台風18号が駆け抜け、今日は朝から目が醒めるような青空が広がった。自宅の集合住宅5階の通路から富士の美しい稜線が眺められ、空気もこれまでになく澄んでいるような清々しい1日の始まりだった。
しかし、先日から受けているストレスは台風のようには立ち去ってくれず、今日も波状的に襲ってきた。
「老齢年金はどうなった？手続きしに銀行に行かなきゃ」とひと月ほど前から事あるごとに聞いてくる。そのたびに、「心配要らないよ。手続きは済んで口座に振り込まれているから。この間、一緒に銀行へ行って、生活費を下ろしてきたよね」と答える。この会話はまるで壊れたレコードプレイヤーのように繰り返されるのが日課だ。何度言い聞かせても、本人は初めて耳にするような顔をして、また同じ質問が口をついて出てくる。そして、最近は「おれの通帳を返せ。黙って持っていくな。おまえなんかもう来なくていい」と電話で怒鳴り散らされる日課が加わった。
3，4年ほど前から、物忘れがひどくなり、家の中で物をどこに置いたのかわからなくなり、しまいに家族を泥棒呼ばわりするようになった。昨年、入院することもあって、それまで通帳を管理できず、何度となく再発行を繰り返してきた本人と話し合い、私が通帳を管理することになった。その後「通帳がない」「私が通帳を預かってるから大丈夫だよ」の会話は何度リプレイされたことか。それでも、通帳がないと思い込み、勝手に再発行に行ってしまう。
そうしたこともあって、居間の食器棚に私が通帳を預かっている旨を記した紙を貼り付けるようになった。そして数ヵ月経った現在、本人は元来た道に戻るかのように、また家族を泥棒呼ばわりし始めたのである。電話がかかってくるたびに、私の神経は張りつめ、憂鬱な気分になる。そして、電話で泥棒呼ばわりされたあと、さらにその気分は鉛のように重く沈む。
「病気」と理解しつつも、 立ち去ったあとに清々しい空気を残す台風より始末が悪い（と思いたくなる）。
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