作家の大西巨人氏が亡くなった。初めて『神聖喜劇』を読んだのが30歳前後だったろうか。難解でありながら、社会性・思想性の豊かさと小説としての骨太な構成の見事さに、若かりし妻に一読を薦めたのを昨日のことのように憶えている。作家として唯一無二、孤高の煌めきを見せた存在だったと思う。
デビュー作の『精神の氷点』が個人的に一番好きで、90年代の『五里霧』、晩年期の『深遠』も面白かった。『俗情との結託』や『観念的発想の陥穽』に新鮮な驚きを覚えつつ夢中に読んだころが懐かしい。
古今東西を問わず、幅も深さも備えた教養と知識を武器に、『神聖喜劇』の主人公・東堂太郎のような、一度読んだら忘れない超人的記憶力をもった大西氏には、100歳と言わず長く長く生きて、日本の未来を見つめ続けて欲しかった。心からご冥福をお祈りします。
＊この日記では公的人物（作家、政治家、芸能人等々）は敬称略が基本だが、個人的に尊敬してやまない人物にはあえて敬称を付記した。
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